「Kinect for Windows」とは、2012年に発売されたWindows用の周辺機器です。コントローラなどの入力デバイスを使用せず、直感的に操作できる「ナチュラルユーザーインターフェイス」を可能とした本製品は、ゲームだけでなくさまざまな分野で活躍しています。
本日の説明会では、マイクロソフト ディベロップメント代表取締役社長 兼 日本マイクロソフト業務執行役員 最高技術責任者 加治佐 俊一氏が登壇。加治佐氏は「コンピューターのインターフェイスは、文字を利用したCUI(キャラクターユーザーインターフェイス)から、画像を使ったGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)へと変化きました。そして今、Kinectのような直感的でリッチな操作方法「NUI」へと更に進化しようとしています」と語りました。
マイクロソフト ディベロップメント代表取締役社長 兼 日本マイクロソフト業務執行役員 最高技術責任者 加治佐 俊一氏
続いて、各分野における「Kinect for Windows」のサービス例を紹介しました。中でも特に注目したいのが医療分野におけるサービス。もともとXbox 360というゲーム機から生まれた「Kinect」なので、意外に思われる方も多いかもしれません。しかし、医療現場ではこの「Kinect for Windows」によって、大きな進歩を遂げようとしています。
■非接触型画像操作システム「Opect(オペクト)」
「Opect(オペクト)」とは、“手をかざす”“手を振る”などの簡単な動作で、画面上に必要な情報を表示することができる手術支援システムです。これまで「執刀医が患者のそばを離れて滅菌手袋を外し、画面を操作する」という一連の動作が必要で、執刀医の集中力が乱れ、手術の時間もその分延びていました。「Opect」の導入により、無菌状態を保ったまま簡単に画面を操作できるので、手術時間の短縮が実現しています。
「Opect(オペクト)」を操作している場面。手術を行いながら、簡単な操作で画面をチェックできます
「Opect(オペクト)」を使用している時の画像。患者の体内の画像が表示されます
■障碍者活動支援ソリューション「OAK」
重度の障碍によって体を動かすのが困難な人が、目や口の開閉や簡単な手の動きなどでコマンドを入力するシステムです。自分の意志を素早く伝える、本やスライドを自力で読むなどの行動が可能になっています。
「OAK」を使用して、手の動きで自分の意志を伝えます
目や口をフォーカスして、その動きを読み取ります
■「リハビリウム起立くん」
リハビリを行う患者を支援するシステムです。単調になりがちなリハビリを、ゲームにすることで患者のモチベーションを高めます。
「リハビリウム起立くん」を使用しているシーンです
所定の回数をこなすと、このようなご褒美シーンも
上記の3例は、医療現場で実際に導入されているケースです。今後ますます、Kinectを利用したシステムは増えていくことでしょう。
Kinectを利用したNUI(ナチュラルユーザーインターフェイス)が活躍しているのは、医療分野だけではありません。Xbox 360時代からの本領とも言えるゲーム分野や、ビジネスの分野にもその活動範囲は広がっています。
■Hello Counter
「Kinect for Windows」を応用した、人流計測システムです。商業施設で時間ごとの入退店数を確認したり、通路の通過人数を計測したりと幅広い用途で使用されています。
階乗に設置されていた「Hello Counter」システム。中央に通った総人数が表示され、左右にはそちらの方向に向かった人数がカウントされています
■シャトルバス手配システム(マイクロソフト本社)
広大なマイクロソフト本社の敷地内を移動する、シャトルバスを手配するシステムです。ただバスを時間通りに手配するだけでなく、ユーザーの服装やいらだち具合までもをチェックし、応対を微妙に変化させるシステムを搭載しています。また、一組だけでなく複数のユーザーへの応対を同時にすることが可能で、今後更に発展させていくとのことです。
マイクロソフト本社で実施されているシャトルバス手配システム
必要な機材はパソコンとモニター、Kinectのみ
人物の様子をセンサーで読み取り、ソフトが対応します。後ろに並んでいる人にも気がついていますね
■書道フィジカルインスタレーション「AIR SHODOU」
筆ではなく、全身を使って文字や絵を描く書道体感システム。体全体を動かして空間に文字を書くので、ダイナミックな書道を楽しむことができます。墨や紙も使わないので、気軽に楽しめるのもポイントです。広島現代美術館で開催された「ゲンビどこでも企画公募 2011」にて入選を果たしました。
「AIR SHODOU」をしている加治佐氏
■Digits
マイクロソフト社の「マイクロソフト リサーチ」という部署が開発を進めているKinect用のデバイスです。手首に取り付けることで、腕や手の動きをより詳細に感じ取ることが可能になります。体感ゲームはもちろん、さまざまなシーンに応用することができそうです。
手首に取り付ける「Digits」は手の動きをより鮮明に読み取ることができます
■IllumiRoom
CES 2013で発表され、大きな反響を呼んだ「IllumiRoom」にも「NUI」の技術が使われています。Kinectがテレビの周囲にある物の大きさや奥行きを読み取り、凹凸がある状態でも映像が不自然に見えないように映像を投射するというシステムは、ゲームへの没入感やスケールアップに大きく影響するでしょう。実用化が待ち遠しいですね。
CES 2013で発表された「IllumiRoom」。起動時に部屋の様子をKinectがスキャンします
画面周りに凹凸があっても、不自然にならない画像が表示されます
加治佐氏によれば、現在マイクロソフトが把握しているだけでも150以上のプロジェクトが進行しているとのこと。これに個人が開発している物を加えれば、膨大な数のソフトが提供されることになるでしょう。ゲームシーンやビジネスシーンに改革をもたらすソフトが登場する日も、もしかしたら近いのかもしれません。
「Kinect for Windows」では多種多様のソフトウェアがリリースされ、今も多くのプロジェクトが進行していますが、それを支えているのはSDK(開発ツール)です。「Kinect for Windows」と同時にバージョン1.0がリリースされて以降、すでに2回のアップデートが行われました。
2012年5月にリリースされたバージョン1.5では、日本語を含む11ヵ国5言語に対応し、「Face SDK」による顔の認識などの機能が追加されました。10月にはバージョン1.6がリリースされ、Windows8対応、Visual Studio2012サポート、仮想マシンのサポートな多くの機能が追加されています。
Kinectをカメラのように手に持って操作する加治佐氏
そして本日、次のバージョンが近日中にリリースされることが加治佐氏から発表されました。まだリリースの日程やバージョン数は未定ですが、Kinect Fusionなど今回も多くの機能追加が行われるそうです。
Kinect Fusionとは、Kinectによるリアルタイムの3Dオブジェクトスキャンニングと、スキャンしたオブジェクトのリアルタイム再構築を行う機能です。Kinectのセンサーをカメラのように手にとって物体をスキャンし、その物体をリアルタイムで画像に映し出すことができるようになります。
Kinect Fusionによってスキャンされた画像です。右の画像にはテクスチャ処理が施されています
また、表示した画像を移動させたり、影や色を付けたりといった事も可能となっています。加治佐氏によれば「3Dスキャンとリアルタイム再構築は非常に大きなPCのパワーが必要となるが、最近のグラフィックプロセッサの発達により可能となった」とのことで、まさに時代に合わせた進化を遂げるといったところでしょうか。
スキャン・再構築した画像に影をつけています
頻繁に行われるアップデートにより、「Kinect for Windows」はさまざまな用途で活用されています
もちろん、Kinect Fusionだけでなく、そのほかにも多数の機能が追加・アップデートされるとのこと。「Kinect for Windows SDK」に注目している人は、続報に期待しましょう。
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