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第3回『ゲームエンジンで振り返るFPSの歴史』

これまで名作タイトルや開発者という視点でFPSジャンルの歴史を振り返ってきましたが、連載3回目となる今回は、ハードウェアやテクノロジーを意味する“ゲームエンジン”という観点でこれまでの進化の経緯をたどってみたいと思います。

ゲーム機 ハードウェア


既に振り返ってきたように、FPSの歴史はハードウェアの進化、テクノロジーの進化と切って切り離せない関係にあります。歴史的にFPSは最も性能が求められてきたジャンルであり、そのFPSのために作られたフレームワーク=ゲームエンジン、がFPSのみならず広く一般のゲームを開発する為に多数の企業へライセンスされてきました。現在ではそうしたゲームエンジンを利用するのは一般的な開発手法となり、ライセンスビジネスとしても確立しています。

FPSの原点とも言えるid Softwareのジョン・カーマックの手による『Doom』および『Doom 2』で用いられたエンジンはDoom Engine(id Tech 1)と称され、外部への提供がスタート。エンジンのライセンスビジネスの始まりとなりました。そのソースコードは現状ではオープンソースとして公開され、規約に従えば誰でも利用ができます。

Doom Engineはレベル(ステージ)、キャラ移動、エフェクトなどのレンダリングエンジン、サウンド管理システムで構成されていて、現代のゲームエンジンと比べるとシンプルな構成で、レンダリングにおいても視界の上下に対応できず敵キャラクターも2D表示であるなど完全な3Dエンジンとは言えませんが、クオリティの高さで『Hexen』『Strife』『Chex Quest』などのゲームで採用されました。



『Doom』から更なる進化を見せた『Quake』で用いられたQuake Engineは完全3DのFPSを実現させたエンジンです。敵キャラクターを含めて3Dで描画され、それにより、レベルの高低差表現や視界の上下など高さの概念も導入されました。技術的にはレイトレーシングや事前計算ライトマップといったものが追加されています。さらに、マルチプレイでは初めてTCP/IPをサポート。インターネットを通じてネットワーク対戦を可能にしました。

Quake Engineはその後の様々なゲームエンジンに影響を与えました。Valve SoftwareがQuake Engineを大幅に改造し『Half-Life』で使用したGoldsource(GoldSrc)もその一つです。Valveはアニメーション、AI、GL、ソフトウェアレンダラーといったその後のFPSに重要となってくる要素を追加し、コード全体の75%はオリジナルのものへと書き換えたそうです。このエンジンは更に『Half-Life 2』で使用したSource Engineへと進化しています。また、Goldsource自体も『Gunman Chronicles』『James Bond 007: Nightfire』などのゲームにライセンスされています。

Quake Engineをid Software自身の手によって拡張したのがQuake II Engine(id Tech 2)です。大きな特徴はソフトウェアレンダラーだけでなく、OpenGLに代表されるハードウェアアクセラレーターに対応したこと。また、幾つかの機能をDLL(ライブラリ)に分割し、ソフトウェアレンダラーを利用する場合とOpenGLを利用する場合で動作を分ける機構となっているのも特徴です。Quake II Engineは『Quake II』のほか、『Heretic II』、『Daikatana』などで採用。現在はオープンソースとして公開されています。

■FPSだけでないゲームエンジン

ゲーム開発の複雑、高度化が進むとゲームエンジンはFPSのみならず、あらゆるゲームジャンルにおいて採用されるようになってきました。また、スクリプト言語の導入や、ゲーム開発全体をカバーする統合環境とすることで、効率的な開発というのも重要なキーワードとなってきました。

現在まで続くゲームエンジンの系譜としてUnreal Engineは見過ごす事は出来ません。Epic Gamesが1998年にデビューさせたUnreal Engineはレンダリング、コリジョン判定、AI、ネットワーク、ファイルシステムなどを統合したゲームエンジンです。最大の特徴はUnreal Scriptと呼ばれるJavaベースのスクリプトで記述することで、ゲームを作り上げていくという考え方です。また、様々なツールを用意することで、ライブラリから統合開発環境へと進化をしていきます。『Deus Ex』『Unreal Tournament』『ハリーポッターと賢者の石』などで使われました。



1999年に登場したQuake III Engine(id Tech 3)は『Quake III Arena』のための開発されたゲームエンジン。Quake II Engineの拡張であり、ソフトウェアレンダラーが廃止され、OpenGLをサポートしたグラフィックボードのみでの動作となりました。技術的には頂点シェーダーやシェーダーなどが簡易的ながらも導入。外部ライセンスでは『Star Wars Jedi Knight II: Jedi Outcast』『Medal of Honor: Allied Assault』『アリス イン ナイトメア』などで採用されています。FPS以外への採用が始まっていることが分かります。

Activision/Infinity Wardが開発した『Call of Duty』も初代はQuake III Engineを利用しています。

2002年の『America's Army』と同時にデビューしたEpicのUnreal Engine 2はUnreal Engineのコアなコードとレンダリングエンジンを一新したもの。FPSの主流も徐々に家庭用ゲーム機に移り変わり、Unreal Engine 2ではゲームキューブやXboxのサポートが追加されています。

Quake III Engineから3年。2004年に『Doom III』と共にデビューしたDoom III Engine(id Tech 4)は最大の特徴としてピクセル単位のリアルタイムライティングが導入されたほか、バンプマップ、ノーマルマップ、スペキュラーハイライティングなどが導入。リアルで広大なマップを表現するための「メガテクスチャ」技術も登場。3万×3万ピクセルのような巨大なテクスチャも利用できるようになりました。さらに、C++に類似した言語のスクリプト言語にも対応しています。『Doom III』の他には『Quake 4』『Prey』などが採用しました。

■最新テクノロジーと多様化の時代

現代に至って、ゲームエンジンは最新テクノロジーを導入するだけでなく、多様なあり方が示されています。プロが使うだけでなく、誰でもゲームを作れる環境を実現するためのツールセットとしての意味合いもそれぞれが持つようになってきました。

Epicが2009年に発表した最新バージョンUnreal Engine 3はDirect X 9以降の世代に対応したゲームエンジン。PC、Xbox 360、PS3といったハードのみでなく、iOSへの対応も実現。ハイダイナミックレンジ、ピクセル単位のライティング、ダイナミックシャドウ、グローバルイルミネーションへの対応を実現。非商などでは無償で利用できる一般向けのUDK
(Unreal Development Kit)も公開が開始されました。代表的な採用タイトルとしては『Gears of War 3』『Mass Effect 3』『Bulletstorm』といったものがあります。



同じく2009年に発表されたGamebryo Lightspeedは柔軟性をウリにしたゲームエンジン。ライセンシーにはソースコード全体が提供されるほか、Gamebryoの一部を利用したゲーム開発も可能。『The Elder Scrolls VI: Oblivion』ではレンダリングエンジンとして利用されました。また、Lightspeed=光の速さでの開発を標榜し、動作中のゲームを見ながらリアルタイムにオブジェクトの配置やパラメーターを変更することで開発効率の向上を目指しています(ラピッドプロトタイピング)。『Epic Mickey』『LEGO Universe』『Bully: Scholarship Edition』『侍道3』などで採用があります。

また、ゲームエンジンをゲームの“オーサリングツール”にまで落とし込んで爆発的に普及しているUnityも近年の注目株です。エディタでオブジェクトを配置していくことで3Dゲームを作ることができ、“ゲーム開発を民主化する”=“誰でもゲームを作れる世界”への実現に向けて邁進しています。これは最新の技術を取り入れていくこれまでのゲームエンジンの方向性とはまた少し異なる可能性を見せたと言えましょう(ただしUnityが平凡な技術しか利用できないわけではありません)。iPhone/Android向けゲームから採用が始まり、現在ではPS3/Xbox 360のような大規模なゲーム開発まで可能となっています。また、無償から利用できる点もウリとなっています。

そして、ゲームエンジンの始祖とも言うべき、id Softwareが放つ第5世代のゲームエンジンであるid Tech 5は2007年にアップルのWWDCにて発表されたもの。その後、本エンジンを利用して開発中の最新FPS『Rage』が発表されました。idとしては初めて家庭用向けに展開されます。

id Tech 5の最大の特徴は「バーチャルテクスチャリング」という新技術を用いることで、必要に応じてメモリにロードすることで、テクスチャの最大容量という制限を取り払ったこと。これまでのゲームのようにテクスチャを可能な限り使い回すような努力が不要になります。デモでは20GBのテクスチャデータ(128000ピクセル×128000ピクセル)という巨大なデータを難なく扱う様子が示されました。

WWDCでのデモンストレーション


映像表現の面でもハイダイナミックレンジのレンダリング、ラジオシティ、ソフトパーティクル、モーションブラー、アルファカバレージ・アンチエイリアシング、薄明光線表現、手続き的アニメーション、ダイナミック水表面、衣服シミュレーション、などを新たに導入。また、マルチスレッド処理にも対応しました。

さらに、ライブラリから統合開発環境へという流れをid Tech 5も意識し、「id Studio」という開発環境を提供。これは、アーティストを含む全ての開発者がid Tech 5を通じて作業ができるような環境で、それぞれの職種に対して最適なツールが提供され、ユーザーフレンドリーな環境の中で生産性の高い開発が行えるようになっているそうです。

現在のところ、最初の採用タイトルである『Rage』がようやく10月6日に発売を迎える段階ですが、id Softwareとしてはこれまで通り、外部へのライセンスも行う方針で、今後の情報が期待されます。

ゲームエンジンは極初期にはレンダリング用のライブラリとして登場し、後にトレンドの技術を常に吸収しながら、FPSを作るための雛形として進化していきました。さらに時を経ると、ゲームエンジンはFPSに留まらず、アクションゲームやRPGにも利用されるようになります。更に現代ではレベルデザインやサウンドデザインツールまで統合したゲーム開発の統合環境として進化しています。また、デバイスが多様化する時代においては、ハードウェアを抽象化し、ハードの垣根を超える手助けともなっています。既に各社は次の世代を見据えていると伝えられます。今後の動向にも注目されます。


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