ゲーマーは長野県・諏訪湖の街に行くとおかしくなる。限りなくオープンワールドだと錯覚するから。【ゲームみたいに錯覚する現実の場所】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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ゲーマーは長野県・諏訪湖の街に行くとおかしくなる。限りなくオープンワールドだと錯覚するから。【ゲームみたいに錯覚する現実の場所】

日本最強のオープンワールドの可能性・諏訪湖の街。ゲーマーよ……向かえ!そして錯覚せよ!現実とビデオゲームの狭間を!

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ゲーマーは長野県・諏訪湖の街に行くとおかしくなる。限りなくオープンワールドだと錯覚するから。【ゲームみたいに錯覚する現実の場所】
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川の向こうに、閉じた門が意味がありげに建っていて『後で行くところだな』なんて思った

「すごく高い位置に置かれた箱は、後で重要アイテムを手に入れて取るんだと思った」

「旅行で洞窟を見てみたら、奥にボスがいるような雰囲気があった」

ビデオゲームが誕生して現在まで、およそ70年が経過しました(いつを歴史の始まりと決めるのかはありますが、とりあえず本稿では1950年の三目並べゲーム『Bertie the Brain』を始原としましょうか)。

その間に数々のプレイヤーが数々のタイトルを楽しむのと同時に、そのゲームプレイによって現実の見え方すらも変えてきたことでしょう。たとえばRPGを遊んだ豊富な経験は、街中で見かけた入れそうもない門を特別なものとして見たり、ヨーロッパの海外旅行で城を見かければ王様から何らかの使命をもらえるんじゃないと思ったりしたことでしょう。もちろん子供のころから今もビデオゲームを遊び続けている僕も、そういう錯覚を何度も経験しています。

ビデオゲームは長い歴史のなかで数多くのゲームデザインを発明してきました。その中で大きなもののひとつはオープンワールドではないでしょうか? 今回、その意味でゲームみたいな場所だと思わされたのが……長野県にある、諏訪湖の街です。

たぶん読者の皆さんがたくさんのオープンワールドゲームの経験があるほど、上諏訪に足を踏み入れれば似たような錯覚が起こるんじゃないかな、と思います。せっかくのゴールデンウイークです。ゲーマーが錯覚で頭がクラクラする特殊旅行ガイドをお送りしましょう

オープンワールドの矛盾。「開かれた世界」でありながら、「閉じられた空間」であること

オープンワールドの魅力とはなんでしょうか? 簡単にまとめますと、広大な都市や地域をローディングも\なしにシームレスに描画し続けることで、「その世界がまるで現実世界のように感じられる」ということを魅力としたものでしょう。

ですが、地球ひとつをそのまま表現するような広大なオープンワールドは基本的にはありません。ひとつの都市や地域を描写するまでに留めることがほとんどです。もちろん『No Man's Sky』みたいに、見えない壁もなしに無限の宇宙を旅するオープンワールドもありますけど、それは例外として多くの場合は限られた空間を自由に動くまでになるんですよね。

つまり、オープンワールドはその名前と裏腹に閉鎖された世界でもあるのです。僕がオープンワールドの衝撃を受けたのはやっぱり『GTA3』なのですが、あのマイルストーンとなるタイトルをプレイした段階で “開かれながら同時に閉じた世界”なのを感じていました。

『GTA3』はアメリカの大都市を表現していますけども、都市は島の中にしかありません。周囲は海に囲まれ、その先の外界が存在しないように見える。そこで、オープンワールドとは革新的でありながらも、ゲーム的な都合による、異質な空間でもあると感じていましたね。

以降、『The Elder Scrolls IV:Oblivion』や『The Elder Scrolls V: Skyrim』などベセスダ・ソフトワークスのオープンワールドRPGもプレイしたときは「島の中にだけ開かれた都市世界がある」かたちではなく、ちゃんとひとつの大陸全体が表現されており、「おお、開かれた世界なのかな」と感じたものでした。

ですが、こちらも地図の端まで歩くと「それ以上そちらには行けません。戻ってください」とアナウンスが表示され、見えない壁に阻まれます。Modの導入などでこうした壁を取り除くことができるものの、バニラでは基本的に閉じられた世界なのです。たとえ『The Elder Scrolls』シリーズ全体では広大な世界が設定として示唆されていても、実際にゲームプレイしているかぎりは閉鎖されています。

開かれながら閉じた空間だと錯覚させる場所

このように、オープンワールドを採用したタイトルは現実に近い開かれた世界を体験させながら、同時に行動範囲が限定された閉じた世界でもある矛盾を抱えています。ちょうど姉妹媒体のインサイドで「オープンワールドゲームの“マップ外”に行くとどうなる?」という記事が公開され、評判を呼んでいるのを見ても、やはり少なくないプレイヤーが「実は閉じた世界である」という矛盾を気にしているのだろうなあと思います。

このようなオープンワールドの経験をたくさん重ねた中で、旅行ではじめて長野県の上諏訪に足を踏み入れたときに妙な衝撃がありました。現実世界で、自然の溢れる場所なのに、なにか閉ざされた印象を受ける場所なのです。

旅行に行く前、Googleマップで泊まるホテルや観光したい場所をチェックしているときは、この街の閉ざされた印象にまったく気が付きませんでした。現実のマップでは当然、世界のすべてが繋がっていることはわかりきっているものです。

しかし実際の上諏訪駅に降り立ち、街に足を踏み入れ、周りを見渡したとき、はじめて閉じた世界を錯覚しました。街の中心には巨大な湖があり、湖を取り囲むように山に囲まれている。まるで諏訪の街そのものが、周囲の山を壁にして独立してしまっているかのように錯覚するのです

諏訪湖の街をオープンワールドゲームにしたとして、全体マップを開いたとしたらこんな感じ

オープンワールドのマップの如く区切るとすれば、こんな世界に感じるんですね。この場所はまるでデザイナーが設計したシンプルなオープンワールドみたいに「基本的な行動範囲はここまでだよ」と伝えるかのようなのです。

上諏訪駅から予約したホテルに向かい、湖のふもとを歩いてみたところ、さらにビデオゲームみたいな風景に出くわすことになります。独特のオブジェの数々です

諏訪湖には八重垣姫像が屹立しており、ふもとには多数の彫刻が配置された石彫公園が広がっています。

広大な自然を歩いていると、唐突なかたちで奇妙な彫像や意味ありげなオブジェに出会うかたちになり、まるでウォーキングシミュレーターの世界にまで入り込んでしまったかのようなのです。 “この場所はどこか、僕自身の摩耗した精神が現実世界に形を為して現れたかのようだーー”すみません。中年男性のひとり旅ですから、つい『Dear Esther』みたいに歩きながら意味ありげなモノローグを語ってしまいました

意味ありげでほぼ意味はない僕のモノローグはともかく、諏訪湖の街の構造は既存のゲームのオープンワールドでは言えば『Lake』がもっとも近いでしょう。

『Lake』とは、タイトル通り湖が町の中心に位置するアメリカの片田舎にて、都会から故郷へと戻ってきた中年の女性主人公が宅配業を行うというタイトルです。本作は小規模なチームで開発されているだけに、最初に巨大な湖を設定することでオープンワールド開発に必要なコストを削減している狙いがあったと思います。建築物のアセットの作成を削減できることや、マップ上でのイベント設定などを簡単に行いつつ、具体的な世界を描けるわけですね。

そのため、オープンワールドで湖をいきなり真ん中に設定するのは制作上、けっこう有利だったりするわけです。それもまた、諏訪湖の街がオープンワールド的と僕が感じた理由のひとつでもあります。

ただ、『Lake』以上に諏訪湖の街がビデオゲーム的すぎると感じる要素がいくつもあります。

そのひとつが初島神社の存在ですね。この神社は「おいおいここはRPGか何かで船を手に入れたときに行く重要な場所だろ!」と思わされる場所です。なにせ湖の小さな島の上に建てられた神社なのですから。

『Lake』では基本的に湖へ移動はできませんが、諏訪湖では遊覧船やアヒルボートなど、湖へ行けるアクティビティは充実しています。それはまあ普通といえば普通なんですけど、「目に見えて明らかに特殊な場所」の存在はビデオゲーム的な錯覚を強めます。

とはいえ現実ではなんらかのメインミッションをこなすとか、ボスを倒してイベントクリアした先で船を手に入れるとか大きな手間もなく、湖沿いのアヒルボート屋さんにお金を払えば楽に初島神社まで行けます。神秘的な場所へ行くのに面倒なフラグ立ても必要ないわけです。

……が、アヒルボートで初島神社まで行っても、基本的に観光客の上陸は禁じられています。島の周囲に近づくまでは許されているかたちです。いや近くでみるだけって、考えてみれば余計に「ゲームの後半で訪れる土地」みたいになってますね。

オープンワールドのゲームにするなら青の範囲:岡谷市。赤の範囲:諏訪市な感じ

また、湖を中心にふたつの街に分かれているという環境もビデオゲーム的な感じがあります。この環境、まじめにゲームにするならちょっと演出すればすごくドラマチックになりそうじゃないですか。ベタに両陣営を行き来するとか、街の境目を超えるとなにかルールが変わるとか。

この街では、諏訪湖のちょうど真ん中を区切りにして、諏訪市と岡谷市ふたつに街が分かれています。諏訪市が現在、諏訪湖などの自然風景を楽しめる観光地として属性を強くしているなら、一方の岡谷市は養蚕業による製糸工場が世界的に活発だった歴史がある街として存在感を持っている、といったところでしょうか。

特に岡谷市は、養蚕業に関連した観光場所がいくつも存在しています。そこでは諏訪市の観光とは違い、「かつて世界的な製糸産業の土地だったが、歴史に翻弄されるなかで存在感を落としていき、いまでは伝統を伝える方向になった」「製糸産業のために、糸を生み出している膨大な蚕の命を奪ってきた供養としての塔がある」など、ブルージーな歴史を抱えた街として興味深いものがあります。

閉ざされたような諏訪湖の街を、フィクションが扱う意味

このように諏訪湖の街はオープンワールドのゲームみたいだと思うのですが、どこかミステリアスな気配をまとうこの街から、インスピレーションを受けている例はいくつかあります。ただし、ビデオゲームではなくてアニメや映画なのですが。

諏訪湖の街が持つ、開かれながら閉じた感覚は、あの新海誠監督の「君の名は。」にいくつか反映されているようです。特にファンから指摘されているのは諏訪市の立石公園から見える風景ですね。

諏訪の街が湖を中心にまるで箱庭みたいに出来上がっている風景は、自然的でありながらどこか人工的な風景ともいえるでしょう。それが新海監督の作家性に張り付いている人工的な世界観と重なることが、「君の名は。」で上諏訪が登場する理由なんじゃないかなと僕は思っています。 

実写映画では、是枝裕和監督と、坂元裕二氏の脚本による「怪物」の舞台に選ばれています。カンヌ国際映画祭にて脚本賞を受賞した本作では、教師や生徒、家族たちといった様々な登場人物の視点から諍いや事件を描いたもの。それぞれの立場ごとに事件の認識のずれや保身による行動が重なり、登場人物同士の不信感が積み重なる拡大こそが “怪物”である……と僕はあの作品を解釈しています。

この映画は坂元どこか箱庭のような諏訪湖の街を舞台としたことで、あらためてその寓意性を(「怪物」ではそんな坂元氏の脚本にある寓意性が、クィアの視点として問題となった部分もありますが、本稿ではここまでにしておきます)

そうそう、僕はGame*Sparkの連載「飯野賢治とは何者なのか?」の初回にて、坂元裕二さんのインタビューもやってますのでよろしく! そろそろ次回が公開できそうですし、すさまじい関係者が次々と登場するのでご期待ください。

巨大な箱庭の中でアセットのひとつになるような錯覚

実際に諏訪湖の街を訪れに訪れ、諏訪を描いた先行作品を思い出すと、この街をある種の巨大な箱庭みたいに考えているんじゃないかということに気づきます。それは開かれながら閉ざされた世界でもあるオープンワールドらしさに繋がっているともつくづく感じますね。

そんな諏訪湖の街を観光を続けているうちに、僕は僕自身をどこか俯瞰で見つめながら心の遠いところで操作しているような気持ちになってきました。

僕自身が巨大な箱庭に配置されたアセットのひとつのようにだんだんと錯覚してきました。歩く足の疲れも、街の匂いも、湖のゆらめきもすべてモニターで行われる遠い世界のように感じてきました。この錯覚、僕だけのものなのかまったくわからない。オープンワールドをやってきた他のゲーマーもぜひとも諏訪湖の街に行ってほしい。観光とは人間の楽しみを提供するものではなく、普段の生活で蓄積された固定観念――ゲーマーはビデオゲームで独特の固定観念がいくつか醸成されているはず。ゲームみたいに錯覚する現実の場所へ行く意味とは、そうした固定観念と現実とのギャップを確認することです。そしてビデオゲームと現実との関係について考えを深める機会になるはずです。



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《葛西 祝》

ジャンル複合ライティング 葛西 祝

ビデオゲームを中核に、映画やアニメーション、現代美術や格闘技などなどを横断したテキストをさまざまなメディアで企画・執筆。Game*SparkやInsideでは、シリアスなインタビューからIQを捨てたようなバカ企画まで横断した記事を制作している。

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